未来から来た女の子《第四話 B》

12年後って……40歳かー。
「もしかしてアイドル♡デビュー?」って歳じゃないし、「ママドル?」って偉業しなさそうだし、「マラソンランナー?」って走るの嫌いだし。勉強もスポーツも私って全部フツーなんだよなー。
「ルカちゃん、私が一体どんな偉業をするのか教えてよ」
「ダメです。歴史が変わっちゃいます」
「ねぇーちょっとだけ」
「ダメです」
「ルカさま~♡」
「ダメといったらダメです!」

ーーそして深夜。
「ルカちゃん、寝ちゃったか。まだ11歳の小学生だもんね……」明日からどんな生活になるのやら……。
沙織は今日の不思議な出来事をいつもの日記に綴り、ルカの隣で寝ることにした。

筆者 Kuuugle



【続きはこちら】

◆未来から来た女の子《第五話 B》
ー翌朝
「う〜ん。アルバイト」
そう寝ぼけて言ったが、解雇された今、行く必要はないのだった。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 Saki)
「ごめんね…、うち今、厳しくて。」
3年勤めたファミレスは、そんな言葉であっさり解雇された。
小野沙織、28歳。
これからどうしよう。
私って何にもないんだよな…
都心から電車で30分。
大田区蒲田にある古いワンルームマンション。
私はここでずっと一人なんだろうか…
二階の部屋を見上げた。
あれ?明かりがついてる。 
急いで階段を上がった。
「あ、お邪魔してます!」
ドアを開けると小さな女の子がベットからぴょこんと立ち上がった。
「私、ルカといいます。遠い未来から来ました。」

《第二話 B》 (筆者 Saorin)
遠い未来…!?
沙織はまじまじとそのルカと名乗る女の子を見た。
小学校高学年くらいの真面目そうな女の子である。
「あの、私、学校の夏休みの課題でここに来たんです。」
「課題?…課題って?」
「歴史上の有名な人物の若い頃について調べるというものです。」
有名な人物の若い頃…
今でもありそうな課題だ。
「それで、私は小野沙織さんついて調べることにしたんです。よろしくお願いします。」
…え?
歴史上の有名な人物って私?

《第三話 B》 (筆者 らた)
「夏休みって、今冬…」
「だって未来から来たんですもん」
「そっか…」
 明らかにおかしい状況だけど否定できなかった。
 戸惑っている私に、ルカと名乗る女の子は笑顔で話し始めた。
「今って2022年ですよね。私は70年後、つまり2092年から来たんです。小野沙織さんは、2034年、つまり今から12年後にある偉業を成し遂げたんです」

《第四話 B》 (筆者 Kuuugle)
12年後って……40歳かー。
「もしかしてアイドル♡デビュー?」って歳じゃないし、「ママドル?」って偉業しなさそうだし、「マラソンランナー?」って走るの嫌いだし。勉強もスポーツも私って全部フツーなんだよなー。
「ルカちゃん、私が一体どんな偉業をするのか教えてよ」
「ダメです。歴史が変わっちゃいます」
「ねぇーちょっとだけ」
「ダメです」
「ルカさま~♡」
「ダメといったらダメです!」

ーーそして深夜。
「ルカちゃん、寝ちゃったか。まだ11歳の小学生だもんね……」明日からどんな生活になるのやら……。
沙織は今日の不思議な出来事をいつもの日記に綴り、ルカの隣で寝ることにした。


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  • 投稿時は投稿規約を順守してください。事務局で内容を確認のうえサイト上にアップします。
  • 一話あたりの文字数は100~1,000文字までとしてください。1,000文字を超える場合は、次話として投稿してください。

デリバリー物語《第八話 A》

頭の痛みに悶える中も女はまだ何かしゃべり続けているが、どうやら新一は聞くどころではない様子だ。
「お前は……雫(しずく)? いや、まさか! だって雫は確かに……!」
 次第に新一を襲うものは痛みから胸の苦しさに変わっていった。
 思い出したのだ。
 胸を押さえ、何とか立てた自転車を支えに身を縮こまらせる。

「ちょっと、君、大丈夫ですか?」
パトロール中らしい巡査が声をかけてきた。
「……あっ、はい、ちょっと苦しくなって休んでただけなんで。もう……大丈夫です。」
巡査は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、怪し気な物も持っていないし、平静を装う新一は実際大丈夫そうに見えた為、深入りする事なく「滑らないよう気をつけて」とだけ告げパトカーを走らせて行った。
 新一は一先ず家に戻ることにした。
 途中、携帯が鳴る。Uber eats本社から【悪質な嫌がらせに対する注意勧告】といった旨のメッセージだったが、今は無視だ。
戻るや否や疲労が決壊する。気が緩んだのか、新一の目からは堰を切ったように涙が溢れ出した。
……雫は、婚約までした新一の恋人だった。
2人は同棲していた。仲も良かった。毎日が幸せだった。あの事件が起こるまでは。

――一方少し前、新一が宅配に行った高級タワーマンションの一室……
「ねえ、あなた。ホントにラーメン頼んだんじゃないの!?」
小太りで厚化粧、短髪にパーマをかけた中年の夫人がやや怒りを孕んだ声で問いただす。
「はあ? ラーメンなんてわざわざ頼むわけないだろ。しかも家に! というかいきなり何なんだ。」
夫と思われる、高身長ながらも適度に腹周りに脂の乗った、白髪まじりの初老の男もやや喧嘩腰に問い返す。
「それが、この1000円札が一緒に置かれてたのよ!! 気味悪いったらありゃあしない! ウーバーイーツって書いてるわね……店員の悪戯だか何だか知らないけど、ちょっと今から文句言ってやろうと思ってたのよ!」
「……それは気持ち悪いな。人様をそんなに金に苦労してるとでも思ってふざけてやがるのか!? ああ、腹が立つ奴だな。会社にビシっと言ってやれ!」

筆者 物部木絹子



【続きはこちら】

◆デリバリー物語《第九話 A》
再び新一の懐古が始まる。
そう、僕は雫と同棲していた。同棲といっても別々にアパートを借りていた。しかしほとんど僕のアパートに入り浸りだ。すなわち半同棲みたいなものだ。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 空志郎)
ピンポーン!こんばんは、ヤマト運輸です。お荷物お届けに参りました。
ピンポーン!ヨドバシドットコムです。
ピンポーン!アマゾンドットコムです。
ピンポーン!ウーバーイーツです。
ピンポーン!出前館です。
このタワーマンションはいつもこの時間、入口が混雑する。せっかく早く着いてもなかなか順番が回ってこない。
・・・・そしてようやくボクの番。ピンポーン!こんばんは、ウーバーイーツです。テイクアウトの品をお届けに参りました。・・・・「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」。
今日のお客はラッキーだった。この分なら今回も高評価は間違いなし。うまく行けば高いチップもゲットできるかもしれない。でも今日の奥さんは少し様子が暗かった。顔の左側を見せないようにしてた感じもした。どうしたんだろう?ふと新一の頭をよぎったが、今日は時間がまだ早いので、新一は気にせずもう1件デリバリーをこなそうと決めた。
外に出ると、雨が降り始めていた。雨雲レーダーをチェックすると、雨雲は小さいが、断続的にやってくる予報だった。今日はもう店じまいにしよう。新一は自宅に帰ろうと決めた。

《第二話 A》(筆者 空志郎)
(別の日)
今日はどんな人に会えるのか。
新一はこの仕事をはじめて3か月になるが、人の生活の一部が垣間見れるこの配達の仕事が密かな楽しみになっていた。
コロナ禍でオンラインでやり取りすることが増え、めっきり他人と会わなくなったことも影響している。
以前はスポーツジムに時々通っていたが、今は密になり行けなくなったので、
もともとは体力づくりと新しいことをはじめる少しの好奇心が目的だった。
それが今は人間観察が第一目的になっていた。
お仕事開始。配達アプリをオンにすると、早速、近くのフランス料理店の注文通知が来た。店に行くと、料理は2人分、ワインも一緒に頼んでいる。ウーバーバッグに料理を詰め込み、新一は店を出発した。

《第三話 A》 (筆者 空志郎)
配達先に着きインターホンを押すと、中から品のある小綺麗な年配女性が出てきた。
いつものように軽い笑顔で事務的に注文の料理を渡そうとしたが、女性は少し人と話しがしたかったらしい。
「ここのフランス料理、本当に美味しいんですよ。お肉も柔らかくて、ソースも何度でも食べたくなる病み付きになるお味なの」
「ありがとうございます」
「3年前の金婚式の記念日に主人に連れてってもらったんだけど。。そのあと主人は脳卒中で車椅子になり、外出したがらなくなっちゃったからもう行けないなと諦めてたんだけど、この前、娘からこのフランス料理屋さんがデリバリー可能になったと聞いてね。。本当にありがとう。配達ご苦労様です」。年配女性は配達員に深く感謝した。
女性は新一をフランス料理店側の人間と少し混同している感じだった。ただ、新一は自分が料理したわけではないのに、ほっこりした温かい気持ちになった。便利の一端を担うだけと思っていたが、人のためにもなってるのだと感じた瞬間だった。

《第四話 A》 (筆者 三編柚菜)
新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。
 だから、なのだろう。
 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。
 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。
 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。
 疑問は霧のように、脳を支配する。
 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。
 多分、化粧の途中だったんだろう。
 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。
 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。

《第五話 A》 (筆者 物部木絹子)
イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。再びペダルをこぎ始めた新一の視界に幾本もの細長い線が降りてくる。
 雨だ。
 ある程度の雨であれば制服は弾いてくれるが問題は頭だ……新一はヘルメットを持っていない。
(はあ……やっぱり原付免許くらい持っとくべきだったかなぁ)
 こんな時だけ都合よく後悔する。
傘差し運転はまずい。コンビニにでも寄ってタオルを買って帰ろうと思ったがこの住宅街から店舗への通り道は、暫く行かないとコンビニさえない人気のない畦道だったのを思い出し、自然とため息が漏れる。
まるで今の天気のような気分の新一であったが、橋に差し掛かったところで欄干から下の川をじっと覗き込んでいる女を見つける。
 新一は我が目を疑った。
 女が激しさを増す雨の中、傘も何も凌ぐ物を持っていなかった……というのもあるが、それよりもその女が間違いなく顔の左側を見せないようにしていたタワーマンションの奥さんだったからだ。

《第六話 A》 (筆者 ユーハバッハ正義)
色々と思うことはあったが、新一は女を無視することにした。
 悪人になるつもりはないが、歓んで善行をするつもりもない。トラブルに巻き込まれるぐらいなら無視してしまおうと思ったのだ。
新一はただ前だけを見て女の背後を通過する。これで何事もなく……
 「…………」
 髪をかき上げていたことを思い出した。そうだ、左側の髪をかき上げて耳に乗っけていた。振り向きさえすればあの奥さんの顔の左側を見ることができるのだ。
 「…………」
 もはや反射的に振り向いていた。
 「…………」
 「…………」
 そして新一の目に映ったのは、顔の左半分を手で隠してこちらを振り向く女。
 目と目が合った。
 その目は欄干の下にある川よりも深い深い黒色に塗られていた。
 新一は何事もなかったように前に向き直すと、変わらぬスピードで自転車を漕ぐ。
 雨脚が強まったのを新一は感じていた。

《第七話 A》 (筆者 物部木絹子)
「……やっぱり、忘れてるのね。」
心臓が止まるかと思った。ほとんど耳元で聞こえたその声に反射的にブレーキをかけ、停止する。
恐る恐る、背後を振り向く。
さっきの女が荷台に横座りし、こちらを深淵に誘うような漆黒の瞳で見つめていた……顔の左半分はやはり髪で隠れている。
「ひっ……!」
新一は思わず女の肩を突き飛ばす。
女はバランスを取り損ない、水を弾くアスファルトの上に倒れ込んだ。
その時、女の髪が乱れ、遂にその顔の左半分が顕になった……酷い火傷の痕だ。
新一は驚きのあまり体が動かず、その場で荒い呼吸と瞬きを数回。
ほんの2秒も経っていなかったはずだ、だが目の前の女の火傷痕は顔全体おろか、服から出た出足や首にも広がっているではないか……!
「いっ痛っ!」
突然、まるで鈍器で殴られたような頭痛が新一を襲う。
(俺は……この女(ヒト)を知っている?)
女は立ち上がり、新一に告げる。
「……さっきも、飛び降りそうに見えたのに止めなかったね。冷淡なところ、やっぱり変わってないんだね。ねえ、私の本当に欲しいモノ、早く届けてよ。」

《第八話 A》 (筆者 物部木絹子)
頭の痛みに悶える中も女はまだ何かしゃべり続けているが、どうやら新一は聞くどころではない様子だ。
「お前は……雫(しずく)? いや、まさか! だって雫は確かに……!」
 次第に新一を襲うものは痛みから胸の苦しさに変わっていった。
 思い出したのだ。
 胸を押さえ、何とか立てた自転車を支えに身を縮こまらせる。
「ちょっと、君、大丈夫ですか?」
パトロール中らしい巡査が声をかけてきた。
「……あっ、はい、ちょっと苦しくなって休んでただけなんで。もう……大丈夫です。」
巡査は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、怪し気な物も持っていないし、平静を装う新一は実際大丈夫そうに見えた為、深入りする事なく「滑らないよう気をつけて」とだけ告げパトカーを走らせて行った。
 新一は一先ず家に戻ることにした。
 途中、携帯が鳴る。Uber eats本社から【悪質な嫌がらせに対する注意勧告】といった旨のメッセージだったが、今は無視だ。
戻るや否や疲労が決壊する。気が緩んだのか、新一の目からは堰を切ったように涙が溢れ出した。
……雫は、婚約までした新一の恋人だった。
2人は同棲していた。仲も良かった。毎日が幸せだった。あの事件が起こるまでは。

――一方少し前、新一が宅配に行った高級タワーマンションの一室……
「ねえ、あなた。ホントにラーメン頼んだんじゃないの!?」
小太りで厚化粧、短髪にパーマをかけた中年の夫人がやや怒りを孕んだ声で問いただす。
「はあ? ラーメンなんてわざわざ頼むわけないだろ。しかも家に! というかいきなり何なんだ。」
夫と思われる、高身長ながらも適度に腹周りに脂の乗った、白髪まじりの初老の男もやや喧嘩腰に問い返す。
「それが、この1000円札が一緒に置かれてたのよ!! 気味悪いったらありゃあしない! ウーバーイーツって書いてるわね……店員の悪戯だか何だか知らないけど、ちょっと今から文句言ってやろうと思ってたのよ!」
「……それは気持ち悪いな。人様をそんなに金に苦労してるとでも思ってふざけてやがるのか!? ああ、腹が立つ奴だな。会社にビシっと言ってやれ!」


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未来から来た女の子《第三話 B》

「夏休みって、今冬…」
「だって未来から来たんですもん」
「そっか…」
 明らかにおかしい状況だけど否定できなかった。
 戸惑っている私に、ルカと名乗る女の子は笑顔で話し始めた。
「今って2022年ですよね。私は70年後、つまり2092年から来たんです。小野沙織さんは、2034年、つまり今から12年後にある偉業を成し遂げたんです」

筆者 らた



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◆未来から来た女の子《第四話 B》
12年後って……40歳かー。
「もしかしてアイドル♡デビュー?」って歳じゃないし、「ママドル?」って偉業しなさそうだし、


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 Saki)
「ごめんね…、うち今、厳しくて。」
3年勤めたファミレスは、そんな言葉であっさり解雇された。
小野沙織、28歳。
これからどうしよう。
私って何にもないんだよな…
都心から電車で30分。
大田区蒲田にある古いワンルームマンション。
私はここでずっと一人なんだろうか…
二階の部屋を見上げた。
あれ?明かりがついてる。 
急いで階段を上がった。
「あ、お邪魔してます!」
ドアを開けると小さな女の子がベットからぴょこんと立ち上がった。
「私、ルカといいます。遠い未来から来ました。」

《第二話 B》 (筆者 Saorin)
遠い未来…!?
沙織はまじまじとそのルカと名乗る女の子を見た。
小学校高学年くらいの真面目そうな女の子である。
「あの、私、学校の夏休みの課題でここに来たんです。」
「課題?…課題って?」
「歴史上の有名な人物の若い頃について調べるというものです。」
有名な人物の若い頃…
今でもありそうな課題だ。
「それで、私は小野沙織さんついて調べることにしたんです。よろしくお願いします。」
…え?
歴史上の有名な人物って私?

《第三話 B》 (筆者 らた)
「夏休みって、今冬…」
「だって未来から来たんですもん」
「そっか…」
 明らかにおかしい状況だけど否定できなかった。
 戸惑っている私に、ルカと名乗る女の子は笑顔で話し始めた。
「今って2022年ですよね。私は70年後、つまり2092年から来たんです。小野沙織さんは、2034年、つまり今から12年後にある偉業を成し遂げたんです」


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デリバリー物語《第七話 A》

「……やっぱり、忘れてるのね。」
心臓が止まるかと思った。ほとんど耳元で聞こえたその声に反射的にブレーキをかけ、停止する。
恐る恐る、背後を振り向く。
さっきの女が荷台に横座りし、こちらを深淵に誘うような漆黒の瞳で見つめていた……顔の左半分はやはり髪で隠れている。
「ひっ……!」
新一は思わず女の肩を突き飛ばす。
女はバランスを取り損ない、水を弾くアスファルトの上に倒れ込んだ。
その時、女の髪が乱れ、遂にその顔の左半分が顕になった……酷い火傷の痕だ。
新一は驚きのあまり体が動かず、その場で荒い呼吸と瞬きを数回。
ほんの2秒も経っていなかったはずだ、だが目の前の女の火傷痕は顔全体おろか、服から出た出足や首にも広がっているではないか……!
「いっ痛っ!」
突然、まるで鈍器で殴られたような頭痛が新一を襲う。
(俺は……この女(ヒト)を知っている?)
女は立ち上がり、新一に告げる。
「……さっきも、飛び降りそうに見えたのに止めなかったね。冷淡なところ、やっぱり変わってないんだね。ねえ、私の本当に欲しいモノ、早く届けてよ。」

筆者 物部木絹子



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◆デリバリー物語《第八話 A》
頭の痛みに悶える中も女はまだ何かしゃべり続けているが、どうやら新一は聞くどころではない様子だ。「お前は……雫(しずく)? いや、まさか! だって雫は確かに……!」


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 空志郎)
ピンポーン!こんばんは、ヤマト運輸です。お荷物お届けに参りました。
ピンポーン!ヨドバシドットコムです。
ピンポーン!アマゾンドットコムです。
ピンポーン!ウーバーイーツです。
ピンポーン!出前館です。
このタワーマンションはいつもこの時間、入口が混雑する。せっかく早く着いてもなかなか順番が回ってこない。
・・・・そしてようやくボクの番。ピンポーン!こんばんは、ウーバーイーツです。テイクアウトの品をお届けに参りました。・・・・「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」。
今日のお客はラッキーだった。この分なら今回も高評価は間違いなし。うまく行けば高いチップもゲットできるかもしれない。でも今日の奥さんは少し様子が暗かった。顔の左側を見せないようにしてた感じもした。どうしたんだろう?ふと新一の頭をよぎったが、今日は時間がまだ早いので、新一は気にせずもう1件デリバリーをこなそうと決めた。
外に出ると、雨が降り始めていた。雨雲レーダーをチェックすると、雨雲は小さいが、断続的にやってくる予報だった。今日はもう店じまいにしよう。新一は自宅に帰ろうと決めた。

《第二話 A》(筆者 空志郎)
(別の日)
今日はどんな人に会えるのか。
新一はこの仕事をはじめて3か月になるが、人の生活の一部が垣間見れるこの配達の仕事が密かな楽しみになっていた。
コロナ禍でオンラインでやり取りすることが増え、めっきり他人と会わなくなったことも影響している。
以前はスポーツジムに時々通っていたが、今は密になり行けなくなったので、
もともとは体力づくりと新しいことをはじめる少しの好奇心が目的だった。
それが今は人間観察が第一目的になっていた。
お仕事開始。配達アプリをオンにすると、早速、近くのフランス料理店の注文通知が来た。店に行くと、料理は2人分、ワインも一緒に頼んでいる。ウーバーバッグに料理を詰め込み、新一は店を出発した。

《第三話 A》 (筆者 空志郎)
配達先に着きインターホンを押すと、中から品のある小綺麗な年配女性が出てきた。
いつものように軽い笑顔で事務的に注文の料理を渡そうとしたが、女性は少し人と話しがしたかったらしい。
「ここのフランス料理、本当に美味しいんですよ。お肉も柔らかくて、ソースも何度でも食べたくなる病み付きになるお味なの」
「ありがとうございます」
「3年前の金婚式の記念日に主人に連れてってもらったんだけど。。そのあと主人は脳卒中で車椅子になり、外出したがらなくなっちゃったからもう行けないなと諦めてたんだけど、この前、娘からこのフランス料理屋さんがデリバリー可能になったと聞いてね。。本当にありがとう。配達ご苦労様です」。年配女性は配達員に深く感謝した。
女性は新一をフランス料理店側の人間と少し混同している感じだった。ただ、新一は自分が料理したわけではないのに、ほっこりした温かい気持ちになった。便利の一端を担うだけと思っていたが、人のためにもなってるのだと感じた瞬間だった。

《第四話 A》 (筆者 三編柚菜)
新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。
 だから、なのだろう。
 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。
 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。
 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。
 疑問は霧のように、脳を支配する。
 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。
 多分、化粧の途中だったんだろう。
 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。
 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。

《第五話 A》 (筆者 物部木絹子)
イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。再びペダルをこぎ始めた新一の視界に幾本もの細長い線が降りてくる。
 雨だ。
 ある程度の雨であれば制服は弾いてくれるが問題は頭だ……新一はヘルメットを持っていない。
(はあ……やっぱり原付免許くらい持っとくべきだったかなぁ)
 こんな時だけ都合よく後悔する。
傘差し運転はまずい。コンビニにでも寄ってタオルを買って帰ろうと思ったがこの住宅街から店舗への通り道は、暫く行かないとコンビニさえない人気のない畦道だったのを思い出し、自然とため息が漏れる。
まるで今の天気のような気分の新一であったが、橋に差し掛かったところで欄干から下の川をじっと覗き込んでいる女を見つける。
 新一は我が目を疑った。
 女が激しさを増す雨の中、傘も何も凌ぐ物を持っていなかった……というのもあるが、それよりもその女が間違いなく顔の左側を見せないようにしていたタワーマンションの奥さんだったからだ。

《第六話 A》 (筆者 ユーハバッハ正義)
色々と思うことはあったが、新一は女を無視することにした。
 悪人になるつもりはないが、歓んで善行をするつもりもない。トラブルに巻き込まれるぐらいなら無視してしまおうと思ったのだ。
新一はただ前だけを見て女の背後を通過する。これで何事もなく……
 「…………」
 髪をかき上げていたことを思い出した。そうだ、左側の髪をかき上げて耳に乗っけていた。振り向きさえすればあの奥さんの顔の左側を見ることができるのだ。
 「…………」
 もはや反射的に振り向いていた。
 「…………」
 「…………」
 そして新一の目に映ったのは、顔の左半分を手で隠してこちらを振り向く女。
 目と目が合った。
 その目は欄干の下にある川よりも深い深い黒色に塗られていた。
 新一は何事もなかったように前に向き直すと、変わらぬスピードで自転車を漕ぐ。
 雨脚が強まったのを新一は感じていた。

《第七話 A》 (筆者 物部木絹子)
「……やっぱり、忘れてるのね。」
心臓が止まるかと思った。ほとんど耳元で聞こえたその声に反射的にブレーキをかけ、停止する。
恐る恐る、背後を振り向く。
さっきの女が荷台に横座りし、こちらを深淵に誘うような漆黒の瞳で見つめていた……顔の左半分はやはり髪で隠れている。
「ひっ……!」
新一は思わず女の肩を突き飛ばす。
女はバランスを取り損ない、水を弾くアスファルトの上に倒れ込んだ。
その時、女の髪が乱れ、遂にその顔の左半分が顕になった……酷い火傷の痕だ。
新一は驚きのあまり体が動かず、その場で荒い呼吸と瞬きを数回。
ほんの2秒も経っていなかったはずだ、だが目の前の女の火傷痕は顔全体おろか、服から出た出足や首にも広がっているではないか……!
「いっ痛っ!」
突然、まるで鈍器で殴られたような頭痛が新一を襲う。
(俺は……この女(ヒト)を知っている?)
女は立ち上がり、新一に告げる。
「……さっきも、飛び降りそうに見えたのに止めなかったね。冷淡なところ、やっぱり変わってないんだね。ねえ、私の本当に欲しいモノ、早く届けてよ。」


【続きを書く】

  • 投稿時は投稿規約を順守してください。事務局で内容を確認のうえサイト上にアップします。
  • 一話あたりの文字数は100~1,000文字までとしてください。1,000文字を超える場合は、次話として投稿してください。

デリバリー物語《第六話 A》

色々と思うことはあったが、新一は女を無視することにした。
 悪人になるつもりはないが、歓んで善行をするつもりもない。トラブルに巻き込まれるぐらいなら無視してしまおうと思ったのだ。
新一はただ前だけを見て女の背後を通過する。これで何事もなく……
 「…………」
 髪をかき上げていたことを思い出した。そうだ、左側の髪をかき上げて耳に乗っけていた。振り向きさえすればあの奥さんの顔の左側を見ることができるのだ。
 「…………」
 もはや反射的に振り向いていた。
 「…………」
 「…………」
 そして新一の目に映ったのは、顔の左半分を手で隠してこちらを振り向く女。
 目と目が合った。
 その目は欄干の下にある川よりも深い深い黒色に塗られていた。
 新一は何事もなかったように前に向き直すと、変わらぬスピードで自転車を漕ぐ。
 雨脚が強まったのを新一は感じていた。

筆者 ユーハバッハ正義



【続きはこちら】

◆デリバリー物語《第七話 A》
「……やっぱり、忘れてるのね。」
心臓が止まるかと思った。ほとんど耳元で聞こえたその声に反射的にブレーキをかけ、停止する。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 空志郎)
ピンポーン!こんばんは、ヤマト運輸です。お荷物お届けに参りました。
ピンポーン!ヨドバシドットコムです。
ピンポーン!アマゾンドットコムです。
ピンポーン!ウーバーイーツです。
ピンポーン!出前館です。
このタワーマンションはいつもこの時間、入口が混雑する。せっかく早く着いてもなかなか順番が回ってこない。
・・・・そしてようやくボクの番。ピンポーン!こんばんは、ウーバーイーツです。テイクアウトの品をお届けに参りました。・・・・「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」。
今日のお客はラッキーだった。この分なら今回も高評価は間違いなし。うまく行けば高いチップもゲットできるかもしれない。でも今日の奥さんは少し様子が暗かった。顔の左側を見せないようにしてた感じもした。どうしたんだろう?ふと新一の頭をよぎったが、今日は時間がまだ早いので、新一は気にせずもう1件デリバリーをこなそうと決めた。
外に出ると、雨が降り始めていた。雨雲レーダーをチェックすると、雨雲は小さいが、断続的にやってくる予報だった。今日はもう店じまいにしよう。新一は自宅に帰ろうと決めた。

《第二話 A》(筆者 空志郎)
(別の日)
今日はどんな人に会えるのか。
新一はこの仕事をはじめて3か月になるが、人の生活の一部が垣間見れるこの配達の仕事が密かな楽しみになっていた。
コロナ禍でオンラインでやり取りすることが増え、めっきり他人と会わなくなったことも影響している。
以前はスポーツジムに時々通っていたが、今は密になり行けなくなったので、
もともとは体力づくりと新しいことをはじめる少しの好奇心が目的だった。
それが今は人間観察が第一目的になっていた。
お仕事開始。配達アプリをオンにすると、早速、近くのフランス料理店の注文通知が来た。店に行くと、料理は2人分、ワインも一緒に頼んでいる。ウーバーバッグに料理を詰め込み、新一は店を出発した。

《第三話 A》 (筆者 空志郎)
配達先に着きインターホンを押すと、中から品のある小綺麗な年配女性が出てきた。
いつものように軽い笑顔で事務的に注文の料理を渡そうとしたが、女性は少し人と話しがしたかったらしい。
「ここのフランス料理、本当に美味しいんですよ。お肉も柔らかくて、ソースも何度でも食べたくなる病み付きになるお味なの」
「ありがとうございます」
「3年前の金婚式の記念日に主人に連れてってもらったんだけど。。そのあと主人は脳卒中で車椅子になり、外出したがらなくなっちゃったからもう行けないなと諦めてたんだけど、この前、娘からこのフランス料理屋さんがデリバリー可能になったと聞いてね。。本当にありがとう。配達ご苦労様です」。年配女性は配達員に深く感謝した。
女性は新一をフランス料理店側の人間と少し混同している感じだった。ただ、新一は自分が料理したわけではないのに、ほっこりした温かい気持ちになった。便利の一端を担うだけと思っていたが、人のためにもなってるのだと感じた瞬間だった。

《第四話 A》 (筆者 三編柚菜)
新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。
 だから、なのだろう。
 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。
 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。
 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。
 疑問は霧のように、脳を支配する。
 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。
 多分、化粧の途中だったんだろう。
 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。
 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。

《第五話 A》 (筆者 物部木絹子)

イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。再びペダルをこぎ始めた新一の視界に幾本もの細長い線が降りてくる。
 雨だ。
 ある程度の雨であれば制服は弾いてくれるが問題は頭だ……新一はヘルメットを持っていない。
(はあ……やっぱり原付免許くらい持っとくべきだったかなぁ)
 こんな時だけ都合よく後悔する。
傘差し運転はまずい。コンビニにでも寄ってタオルを買って帰ろうと思ったがこの住宅街から店舗への通り道は、暫く行かないとコンビニさえない人気のない畦道だったのを思い出し、自然とため息が漏れる。
まるで今の天気のような気分の新一であったが、橋に差し掛かったところで欄干から下の川をじっと覗き込んでいる女を見つける。
 新一は我が目を疑った。
 女が激しさを増す雨の中、傘も何も凌ぐ物を持っていなかった……というのもあるが、それよりもその女が間違いなく顔の左側を見せないようにしていたタワーマンションの奥さんだったからだ。

《第六話 A》 (筆者 ユーハバッハ正義)
色々と思うことはあったが、新一は女を無視することにした。
 悪人になるつもりはないが、歓んで善行をするつもりもない。トラブルに巻き込まれるぐらいなら無視してしまおうと思ったのだ。
新一はただ前だけを見て女の背後を通過する。これで何事もなく……
 「…………」
 髪をかき上げていたことを思い出した。そうだ、左側の髪をかき上げて耳に乗っけていた。振り向きさえすればあの奥さんの顔の左側を見ることができるのだ。
 「…………」
 もはや反射的に振り向いていた。
 「…………」
 「…………」
 そして新一の目に映ったのは、顔の左半分を手で隠してこちらを振り向く女。
 目と目が合った。
 その目は欄干の下にある川よりも深い深い黒色に塗られていた。
 新一は何事もなかったように前に向き直すと、変わらぬスピードで自転車を漕ぐ。
 雨脚が強まったのを新一は感じていた。


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みんなで繋ぐ物語(RWY)《第五話 B》

おじいさんが、違和感の正体を確かめるべく、じっと金星を見つめていると、舟に向って近づいてくるのがわかりました。
ポチは空に大きく空いた黒い穴を見て体を低くして吠えています。
「よもや、ここまでかっ」
死を覚悟したおじいさんはポチを抱いて目をぎゅと瞑りました。

筆者 高岩沙由



【続きはこちら】

◆みんなで繋ぐ物語(RWY)《第六話 B》
おじいさんが黒い穴に吸い込まれるかと思った次の瞬間。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 虹若丸)
昔、昔、あるところにおじいさんとおばあさんとポチが住んでいました!
ある日、おじいさんは海へ釣りに出かけました・・・。

《第二話 A》(筆者 ミミ子ちぶちぶ隊番犬)
おばあさんから
「おじいさん ポチも釣りに連れて行ってください。散歩兼お供に。」と言われました。
大きなおにぎり2つを腰につけ出発〜♪

《第三話 A》(筆者 パチビードク)
海岸にはおじいさん専用の小舟があります。おじいさんはいつもこの小舟で、
海岸から少し離れた沖へ出かけます。
「ポチ、行くよ!」
おじいさんは、小舟をこぎはじめました。

《第四話 C》(筆者 コンロード)
いつものように沖に漕ぎ出したお爺さんですが、妙な事に気が付きました。
「む! 金星の位置が……違う!?」
ポチも、何かの変化に気付いたのか、唸り声を上げて周辺を警戒している!

《第五話 B》(筆者 高岩沙由)
おじいさんが、違和感の正体を確かめるべく、じっと金星を見つめていると、舟に向って近づいてくるのがわかりました。
ポチは空に大きく空いた黒い穴を見て体を低くして吠えています。
「よもや、ここまでかっ」
死を覚悟したおじいさんはポチを抱いて目をぎゅと瞑りました。


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デリバリー物語《第五話 A》

イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。再びペダルをこぎ始めた新一の視界に幾本もの細長い線が降りてくる。

 雨だ。

 ある程度の雨であれば制服は弾いてくれるが問題は頭だ……新一はヘルメットを持っていない。

(はあ……やっぱり原付免許くらい持っとくべきだったかなぁ)

 こんな時だけ都合よく後悔する。

傘差し運転はまずい。コンビニにでも寄ってタオルを買って帰ろうと思ったがこの住宅街から店舗への通り道は、暫く行かないとコンビニさえない人気のない畦道だったのを思い出し、自然とため息が漏れる。

まるで今の天気のような気分の新一であったが、橋に差し掛かったところで欄干から下の川をじっと覗き込んでいる女を見つける。

 新一は我が目を疑った。

 女が激しさを増す雨の中、傘も何も凌ぐ物を持っていなかった……というのもあるが、それよりもその女が間違いなく顔の左側を見せないようにしていたタワーマンションの奥さんだったからだ。

筆者 物部木絹子



【続きはこちら】

◆デリバリー物語《第六話 A》
色々と思うことはあったが、新一は女を無視することにした。悪人になるつもりはないが、歓んで善行をするつもりもない。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 空志郎)
ピンポーン!こんばんは、ヤマト運輸です。お荷物お届けに参りました。
ピンポーン!ヨドバシドットコムです。
ピンポーン!アマゾンドットコムです。
ピンポーン!ウーバーイーツです。
ピンポーン!出前館です。
このタワーマンションはいつもこの時間、入口が混雑する。せっかく早く着いてもなかなか順番が回ってこない。
・・・・そしてようやくボクの番。ピンポーン!こんばんは、ウーバーイーツです。テイクアウトの品をお届けに参りました。・・・・「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」。
今日のお客はラッキーだった。この分なら今回も高評価は間違いなし。うまく行けば高いチップもゲットできるかもしれない。でも今日の奥さんは少し様子が暗かった。顔の左側を見せないようにしてた感じもした。どうしたんだろう?ふと新一の頭をよぎったが、今日は時間がまだ早いので、新一は気にせずもう1件デリバリーをこなそうと決めた。
外に出ると、雨が降り始めていた。雨雲レーダーをチェックすると、雨雲は小さいが、断続的にやってくる予報だった。今日はもう店じまいにしよう。新一は自宅に帰ろうと決めた。

《第二話 A》(筆者 空志郎)
(別の日)
今日はどんな人に会えるのか。
新一はこの仕事をはじめて3か月になるが、人の生活の一部が垣間見れるこの配達の仕事が密かな楽しみになっていた。
コロナ禍でオンラインでやり取りすることが増え、めっきり他人と会わなくなったことも影響している。
以前はスポーツジムに時々通っていたが、今は密になり行けなくなったので、
もともとは体力づくりと新しいことをはじめる少しの好奇心が目的だった。
それが今は人間観察が第一目的になっていた。
お仕事開始。配達アプリをオンにすると、早速、近くのフランス料理店の注文通知が来た。店に行くと、料理は2人分、ワインも一緒に頼んでいる。ウーバーバッグに料理を詰め込み、新一は店を出発した。

《第三話 A》 (筆者 空志郎)
配達先に着きインターホンを押すと、中から品のある小綺麗な年配女性が出てきた。
いつものように軽い笑顔で事務的に注文の料理を渡そうとしたが、女性は少し人と話しがしたかったらしい。
「ここのフランス料理、本当に美味しいんですよ。お肉も柔らかくて、ソースも何度でも食べたくなる病み付きになるお味なの」
「ありがとうございます」
「3年前の金婚式の記念日に主人に連れてってもらったんだけど。。そのあと主人は脳卒中で車椅子になり、外出したがらなくなっちゃったからもう行けないなと諦めてたんだけど、この前、娘からこのフランス料理屋さんがデリバリー可能になったと聞いてね。。本当にありがとう。配達ご苦労様です」。年配女性は配達員に深く感謝した。
女性は新一をフランス料理店側の人間と少し混同している感じだった。ただ、新一は自分が料理したわけではないのに、ほっこりした温かい気持ちになった。便利の一端を担うだけと思っていたが、人のためにもなってるのだと感じた瞬間だった。

《第四話 A》 (筆者 三編柚菜)
新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。

 だから、なのだろう。

 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。

 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。

 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。

 疑問は霧のように、脳を支配する。

 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。

 多分、化粧の途中だったんだろう。

 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。

 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。

《第五話 A》 (筆者 物部木絹子)

イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。再びペダルをこぎ始めた新一の視界に幾本もの細長い線が降りてくる。

 雨だ。

 ある程度の雨であれば制服は弾いてくれるが問題は頭だ……新一はヘルメットを持っていない。

(はあ……やっぱり原付免許くらい持っとくべきだったかなぁ)

 こんな時だけ都合よく後悔する。

傘差し運転はまずい。コンビニにでも寄ってタオルを買って帰ろうと思ったがこの住宅街から店舗への通り道は、暫く行かないとコンビニさえない人気のない畦道だったのを思い出し、自然とため息が漏れる。

まるで今の天気のような気分の新一であったが、橋に差し掛かったところで欄干から下の川をじっと覗き込んでいる女を見つける。

 新一は我が目を疑った。

 女が激しさを増す雨の中、傘も何も凌ぐ物を持っていなかった……というのもあるが、それよりもその女が間違いなく顔の左側を見せないようにしていたタワーマンションの奥さんだったからだ。


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【青春小説】春色の思い出とともに《第四話 A》

西條はメモ書きしていたシャープペンシルを机にコトリ、と置く。

「俺さ、実は夏目……真菜さんのこと、好きでさ。コクろうかと思ってたんだ。けど、冬島くん、何だか彼女に気がありそうだったからぶっちゃけ引っかかってて……本当に彼女の事、何とも思ってないの?」

そう言いこちらを真っ直ぐ見つめる西條の瞳は澄んでいたのだが、どこか挑発を含んでいるようにも感じられた。

(何とも思ってないわけないだろ、一目惚れしたんだ)

筆者 物部木絹子



【続きはこちら】

◆【青春小説】春色の思い出とともに《第五話 B》
西條の口調と視線にどう返すべきかと思慮し、口を開こうとした時だった。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 矢田川いつき)
「アキー! 一緒に帰ろー!」
放課後のチャイムと同時に、猪の如く向かってくる影がひとつ。
しかし俺は、それを華麗なステップでかわす。
「甘い!」
「わー! 避けないでー!」
ドシーン、と音を立てそうな勢いで彼女が転びそうになる……が、受け止めるまでが俺の役目。
「大丈夫か、真菜?」
「ありがと……って、誰のせいだと!」
「ハハハ」
何気ない、いつもの日常。
ずっと続くと、思ってた。
「帰るか」
「うん!」
俺らはもう……高校3年生だ。

《第二話 C》(筆者 suzu)
俺が真菜と初めて出会ったのは、高校に入学してから1週間くらいが経ったある日のこと。
各クラス全体を少人数で割り振り、レポート作成や校外探検などを行う、いわゆる課外活動。
「えー、それでは今から番号を振っていきます。自分と同じ番号の人とグループになってください!」
見るからに新人な男性教員が賑わう生徒達に声をかける。
俺はそれでも静寂にならない教室の様子に1つ息を吐き、窓際の席に座りながら風で宙を舞う桜の花びらを見つめていた。
「…重いな」
人見知りの部分がある俺にすると、正直レポートより気が重かった。友達からはそうは見えないと言われるけど、本当に苦手で。
グループワークなんて入学間もない時期はあるあるだと分かっていても、早く終わらないか考えてばかり。
数分後、俺は先生から5番という数字を言い渡され、仕方ないと言い聞かせて彼の合図でグループの人を探すことになった。
「あ、5番?」
「、ああ」
「よろしくな」
グループは全員で3人。まずは1人、隣のクラスの男子を見つける。
ーーすると、背後からツンツンと背中を突かれた。
「ねぇ、何番?」
「あ、俺は5番─…」
黒髪のセミロングに、パッチリとした瞳。一気に吸い込まれる。
「本当に?私も5番。一緒だ!」
それから放課後、図書室で一緒に資料を作ったり。発表の時には小さな声で打ち合わせをしたり。
端から見たら何ともない…どこにでもある景色だと思う。
「私は真菜。真菜で良いよ」
「…よろしく、真菜。俺は…アキ」
「アキ、よろしくね」
────でも、きっと俺は。
君がそう、俺に微笑んだあの瞬間から、始まっていたんだ。

《第三話 A》(筆者 物部木絹子)
「夏目さんって可愛いよな。」
「……そうか? 別に普通じゃね?」
 俺は一瞬、心の奥を見透かされたような気がして気づけば思ってもいない返答をしていた。
 放課後の図書室、今は同じ5番グループの西條 誠(さいじょう まこと)と2人で課題の【戦国武将の愛したファッション】で集めた資料を前に話し合いをしていたところだ。

《第四話 A》(筆者 物部木絹子)
西條はメモ書きしていたシャープペンシルを机にコトリ、と置く。

「俺さ、実は夏目……真菜さんのこと、好きでさ。コクろうかと思ってたんだ。けど、冬島くん、何だか彼女に気がありそうだったからぶっちゃけ引っかかってて……本当に彼女の事、何とも思ってないの?」

そう言いこちらを真っ直ぐ見つめる西條の瞳は澄んでいたのだが、どこか挑発を含んでいるようにも感じられた。

(何とも思ってないわけないだろ、一目惚れしたんだ)


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  • 投稿時は投稿規約を順守してください。事務局で内容を確認のうえサイト上にアップします。
  • 一話あたりの文字数は50~200文字までとしてください。200文字を超える場合は、次話として投稿してください。

デリバリー物語《第四話 A》

新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。

 だから、なのだろう。

 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。

 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。

 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。

 疑問は霧のように、脳を支配する。

 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。

 多分、化粧の途中だったんだろう。

 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。

 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。

筆者 三編柚菜



【続きはこちら】

◆デリバリー物語《第五話 A》
イタリアン系ファミレス店の品を、閑静な住宅街の一軒家に配達し終わった時だ。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 空志郎)
ピンポーン!こんばんは、ヤマト運輸です。お荷物お届けに参りました。
ピンポーン!ヨドバシドットコムです。
ピンポーン!アマゾンドットコムです。
ピンポーン!ウーバーイーツです。
ピンポーン!出前館です。
このタワーマンションはいつもこの時間、入口が混雑する。せっかく早く着いてもなかなか順番が回ってこない。
・・・・そしてようやくボクの番。ピンポーン!こんばんは、ウーバーイーツです。テイクアウトの品をお届けに参りました。・・・・「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」。
今日のお客はラッキーだった。この分なら今回も高評価は間違いなし。うまく行けば高いチップもゲットできるかもしれない。でも今日の奥さんは少し様子が暗かった。顔の左側を見せないようにしてた感じもした。どうしたんだろう?ふと新一の頭をよぎったが、今日は時間がまだ早いので、新一は気にせずもう1件デリバリーをこなそうと決めた。
外に出ると、雨が降り始めていた。雨雲レーダーをチェックすると、雨雲は小さいが、断続的にやってくる予報だった。今日はもう店じまいにしよう。新一は自宅に帰ろうと決めた。

《第二話 A》(筆者 空志郎)
(別の日)
今日はどんな人に会えるのか。
新一はこの仕事をはじめて3か月になるが、人の生活の一部が垣間見れるこの配達の仕事が密かな楽しみになっていた。
コロナ禍でオンラインでやり取りすることが増え、めっきり他人と会わなくなったことも影響している。
以前はスポーツジムに時々通っていたが、今は密になり行けなくなったので、
もともとは体力づくりと新しいことをはじめる少しの好奇心が目的だった。
それが今は人間観察が第一目的になっていた。
お仕事開始。配達アプリをオンにすると、早速、近くのフランス料理店の注文通知が来た。店に行くと、料理は2人分、ワインも一緒に頼んでいる。ウーバーバッグに料理を詰め込み、新一は店を出発した。

《第三話 A》 (筆者 空志郎)
配達先に着きインターホンを押すと、中から品のある小綺麗な年配女性が出てきた。
いつものように軽い笑顔で事務的に注文の料理を渡そうとしたが、女性は少し人と話しがしたかったらしい。
「ここのフランス料理、本当に美味しいんですよ。お肉も柔らかくて、ソースも何度でも食べたくなる病み付きになるお味なの」
「ありがとうございます」
「3年前の金婚式の記念日に主人に連れてってもらったんだけど。。そのあと主人は脳卒中で車椅子になり、外出したがらなくなっちゃったからもう行けないなと諦めてたんだけど、この前、娘からこのフランス料理屋さんがデリバリー可能になったと聞いてね。。本当にありがとう。配達ご苦労様です」。年配女性は配達員に深く感謝した。
女性は新一をフランス料理店側の人間と少し混同している感じだった。ただ、新一は自分が料理したわけではないのに、ほっこりした温かい気持ちになった。便利の一端を担うだけと思っていたが、人のためにもなってるのだと感じた瞬間だった。

《第四話 A》 (筆者 三編柚菜)
新たな注文通知を受け取り、新一はペダルを強く踏み込んだ。

 昨日とは打って変わった晴天の下、フランス料理店でのやり取りも相まって気分は透き通っていた。

 だから、なのだろう。

 新一の脳裏に、あの──顔の左側を見せないようにしていた──女性の姿が過ぎった。

 緩い下り坂、ペダルから足を離す。 心地よい風に前髪をなびかせる新一は、突如呼び起こされた過去を反芻し、心が小雨に佇むような感に打たれた。

 どうしてこんなにも引っ掛かるのか……。

 疑問は霧のように、脳を支配する。

 しかし、あくまで自分は一人の配達人にすぎないのだ。 プライバシーの観点からしても、独善的な考えで首を突っ込むわけにもいくまい。

 多分、化粧の途中だったんだろう。

 新一はそう結論付けて、視界に目的地を見付けるや再びペダルに足を乗せた。

 どこまでも蒼かったはずの空を侵食する、遠方の鈍色にも気付かずに。


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【青春小説】春色の思い出とともに《第三話 A》

「夏目さんって可愛いよな。」
「……そうか? 別に普通じゃね?」
 俺は一瞬、心の奥を見透かされたような気がして気づけば思ってもいない返答をしていた。 放課後の図書室、今は同じ5番グループの西條 誠(さいじょう まこと)と2人で課題の【戦国武将の愛したファッション】で集めた資料を前に話し合いをしていたところだ。

筆者 物部木絹子



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西條はメモ書きしていたシャープペンシルを机にコトリ、と置く。


【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 矢田川いつき)
「アキー! 一緒に帰ろー!」
放課後のチャイムと同時に、猪の如く向かってくる影がひとつ。
しかし俺は、それを華麗なステップでかわす。
「甘い!」
「わー! 避けないでー!」
ドシーン、と音を立てそうな勢いで彼女が転びそうになる……が、受け止めるまでが俺の役目。
「大丈夫か、真菜?」
「ありがと……って、誰のせいだと!」
「ハハハ」
何気ない、いつもの日常。
ずっと続くと、思ってた。
「帰るか」
「うん!」
俺らはもう……高校3年生だ。

《第二話 C》(筆者 suzu)
俺が真菜と初めて出会ったのは、高校に入学してから1週間くらいが経ったある日のこと。
各クラス全体を少人数で割り振り、レポート作成や校外探検などを行う、いわゆる課外活動。
「えー、それでは今から番号を振っていきます。自分と同じ番号の人とグループになってください!」
見るからに新人な男性教員が賑わう生徒達に声をかける。
俺はそれでも静寂にならない教室の様子に1つ息を吐き、窓際の席に座りながら風で宙を舞う桜の花びらを見つめていた。
「…重いな」
人見知りの部分がある俺にすると、正直レポートより気が重かった。友達からはそうは見えないと言われるけど、本当に苦手で。
グループワークなんて入学間もない時期はあるあるだと分かっていても、早く終わらないか考えてばかり。
数分後、俺は先生から5番という数字を言い渡され、仕方ないと言い聞かせて彼の合図でグループの人を探すことになった。
「あ、5番?」
「、ああ」
「よろしくな」
グループは全員で3人。まずは1人、隣のクラスの男子を見つける。
ーーすると、背後からツンツンと背中を突かれた。
「ねぇ、何番?」
「あ、俺は5番─…」
黒髪のセミロングに、パッチリとした瞳。一気に吸い込まれる。
「本当に?私も5番。一緒だ!」
それから放課後、図書室で一緒に資料を作ったり。発表の時には小さな声で打ち合わせをしたり。
端から見たら何ともない…どこにでもある景色だと思う。
「私は真菜。真菜で良いよ」
「…よろしく、真菜。俺は…アキ」
「アキ、よろしくね」
────でも、きっと俺は。
君がそう、俺に微笑んだあの瞬間から、始まっていたんだ。

《第三話 A》(筆者 物部木絹子)
「夏目さんって可愛いよな。」
「……そうか? 別に普通じゃね?」
 俺は一瞬、心の奥を見透かされたような気がして気づけば思ってもいない返答をしていた。
 放課後の図書室、今は同じ5番グループの西條 誠(さいじょう まこと)と2人で課題の【戦国武将の愛したファッション】で集めた資料を前に話し合いをしていたところだ。


【続きを書く】

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