途中で書店に寄って次に読もうと思ってたミステリー小説を買い、自宅へと帰った。だらだらと過ごして寝床につく前、あの女の子のことを思い出した。
名前、なんだったけと思いながらそっと目を閉じ、そうだ、「真菜」だと思い出す。自分の名前を口にしたときの彼女を思い出すと、すこしむず痒い気持ちになった。お互いに一歩関係が近づいた気がしてしまったから。
気づけば今日の彼女を思い返してばかりだった気がする。雨に濡れた姿、名前を言うときのはにかむ様子、別れ際に手を振るときの表情。全部脳裏に浮かべた。
最後に、「真菜」という名前をもう一度思い出し、もう忘れたくないなと思いながら眠りに落ちた。
筆者 恒李
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【ここまでのストーリー】
《第一話》(筆者 矢田川いつき)
「アキー! 一緒に帰ろー!」
放課後のチャイムと同時に、猪の如く向かってくる影がひとつ。
しかし俺は、それを華麗なステップでかわす。
「甘い!」
「わー! 避けないでー!」
ドシーン、と音を立てそうな勢いで彼女が転びそうになる……が、受け止めるまでが俺の役目。
「大丈夫か、真菜?」
「ありがと……って、誰のせいだと!」
「ハハハ」
何気ない、いつもの日常。
ずっと続くと、思ってた。
「帰るか」
「うん!」
俺らはもう……高校3年生だ。
《第二話 A》(筆者 ハニービースト)
俺と真菜が出会ったのは高校1年の夏。暑い日だった。
学校帰りにバス停に向かう途中、急な夕立ちに見舞われ折りたたみ傘を出すと…
「すみません!その傘、一緒に入れて下さい!」と急に女の子が少しぶつかり気味に入ってきた。
「おーっとっと…えっ!なに?」
「今日、雨の予報なんてなかったよね。あーこんなに濡れちゃったー」
「あっ、このハンカチ使います?」
「ありがとう……これって相合い傘ですよねー。少しドキドキしますね。しませんか?」
「いや、まあー」
「いつもバスで本読んでますよね!どんな本を読んでるんですか?」
「いや、まあー……」
それが真菜と俺の最初の出会いだった。
《第三話 C》(筆者 恒李)
傘で覆われる空間は一種のパーソナルスペースだと考えている。そこへ名前も知らない人がいきなり侵入してくるわけだ。普通は嫌悪感を抱くだろう。しかしその悪意の無い強引さと笑顔に負け、このくらいいいかと寛容になる。
「今日は本読まないの?」
バスまでの道のりで同じ学年であることを知り、敬語が外れた口調で覗き込むように訊いてくる。座る気のなかった二人席に腰掛けてるから距離が近い。
「もうぜんぶ読み終わったし、新しいの買おうと思う」
「へぇ、じゃあ今日はお喋りできるね」
横を見ると、目を細めて柔らかく笑うその子がいた。雨に濡れ、いくつもの小さな束を作る前髪が、その笑顔のアクセントになっているように思えた。
《第四話 E》(筆者 ハザマ)
そんな屈託のない彼女の笑顔に、見惚れてしまっている自分がいた。
「ん?何かついてる?」
思わずスマホの画面に自分の顔を写して確認する彼女。
「あ、いや、濡れて寒くないかなって思って」
俺は見惚れていたことをごまかすために、とっさの一言を放った。
「心配してくれてる?キミが傘に入れてくれたから大丈夫だよ」
ごまかせてはいたようだが、ニコニコと喋る彼女と、席の近さも相まって俺は何だか気が気じゃない。
「ねえ、何組なの?あたしは3組」
「俺は1組」
「じゃあ担任市川先生でしょ?いいなー」
「何で?」
「だって市川先生優しそうじゃん。うちの太田なんて体育会系なもんだから暑苦しくて」
「ああ、確かに、いろいろとアツい人だよな太田先生は」
どぎまぎしながらも、他愛のない世間話をしている内に俺が降りるバス停に到着した。
「じゃあ、俺ここで降りるから」
「あ!待って!」
「ん?」
「名前、教えて」
「俺の?」
「そう。あたしは真菜」
「俺は、秋。秋って書いて『あきら』って読む」
「あきらくん、あきらくんだね。うん、覚えた、ありがと」
なぜか嬉しそうな彼女に手を振られ、俺も手を小さく振りながらバスを降りた。
《第五話 C》(筆者 恒李)
途中で書店に寄って次に読もうと思ってたミステリー小説を買い、自宅へと帰った。だらだらと過ごして寝床につく前、あの女の子のことを思い出した。
名前、なんだったけと思いながらそっと目を閉じ、そうだ、「真菜」だと思い出す。自分の名前を口にしたときの彼女を思い出すと、すこしむず痒い気持ちになった。お互いに一歩関係が近づいた気がしてしまったから。
気づけば今日の彼女を思い返してばかりだった気がする。雨に濡れた姿、名前を言うときのはにかむ様子、別れ際に手を振るときの表情。全部脳裏に浮かべた。
最後に、「真菜」という名前をもう一度思い出し、もう忘れたくないなと思いながら眠りに落ちた。
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