「進路、決まってる?」
ハンカチで髪をふく彼女に話しかける。独り言みたいな声量で。
彼女が、ピタリと手を止めた。
「アキは?」
「質問を質問で返すな!」
軽く肩をはたいた。いつものように二人で笑う。なんてことはなく、いつになく重い空気がながれている。
「アキ、は?」
もう一度、彼女が、真菜が聞く。
答えられない。
「まあ、私から言わなきゃだよね」
珍しく苦笑いを浮かべる真菜。
「アキ、読み終わった本は面白かった?」
急に何で本の話。
「あれ、書いてるの私。初めて会った時に読んでたのも」
それは、え?どういう。
「私、小説家なんだ。」
理解が追いつかなかった。
筆者 多菓子
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【ここまでのストーリー】
《第一話》(筆者 矢田川いつき)
「アキー! 一緒に帰ろー!」
放課後のチャイムと同時に、猪の如く向かってくる影がひとつ。
しかし俺は、それを華麗なステップでかわす。
「甘い!」
「わー! 避けないでー!」
ドシーン、と音を立てそうな勢いで彼女が転びそうになる……が、受け止めるまでが俺の役目。
「大丈夫か、真菜?」
「ありがと……って、誰のせいだと!」
「ハハハ」
何気ない、いつもの日常。
ずっと続くと、思ってた。
「帰るか」
「うん!」
俺らはもう……高校3年生だ。
《第二話 A》(筆者 ハニービースト)
俺と真菜が出会ったのは高校1年の夏。暑い日だった。
学校帰りにバス停に向かう途中、急な夕立ちに見舞われ折りたたみ傘を出すと…
「すみません!その傘、一緒に入れて下さい!」と急に女の子が少しぶつかり気味に入ってきた。
「おーっとっと…えっ!なに?」
「今日、雨の予報なんてなかったよね。あーこんなに濡れちゃったー」
「あっ、このハンカチ使います?」
「ありがとう……これって相合い傘ですよねー。少しドキドキしますね。しませんか?」
「いや、まあー」
「いつもバスで本読んでますよね!どんな本を読んでるんですか?」
「いや、まあー……」
それが真菜と俺の最初の出会いだった。
《第三話 C》(筆者 恒李)
傘で覆われる空間は一種のパーソナルスペースだと考えている。そこへ名前も知らない人がいきなり侵入してくるわけだ。普通は嫌悪感を抱くだろう。しかしその悪意の無い強引さと笑顔に負け、このくらいいいかと寛容になる。
「今日は本読まないの?」
バスまでの道のりで同じ学年であることを知り、敬語が外れた口調で覗き込むように訊いてくる。座る気のなかった二人席に腰掛けてるから距離が近い。
「もうぜんぶ読み終わったし、新しいの買おうと思う」
「へぇ、じゃあ今日はお喋りできるね」
横を見ると、目を細めて柔らかく笑うその子がいた。雨に濡れ、いくつもの小さな束を作る前髪が、その笑顔のアクセントになっているように思えた。
《第四話 B》(筆者 多菓子)
「進路、決まってる?」
ハンカチで髪をふく彼女に話しかける。独り言みたいな声量で。
彼女が、ピタリと手を止めた。
「アキは?」
「質問を質問で返すな!」
軽く肩をはたいた。いつものように二人で笑う。なんてことはなく、いつになく重い空気がながれている。
「アキ、は?」
もう一度、彼女が、真菜が聞く。
答えられない。
「まあ、私から言わなきゃだよね」
珍しく苦笑いを浮かべる真菜。
「アキ、読み終わった本は面白かった?」
急に何で本の話。
「あれ、書いてるの私。初めて会った時に読んでたのも」
それは、え?どういう。
「私、小説家なんだ。」
理解が追いつかなかった。
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