【青春小説】春色の思い出とともに《第六話 A》

「……そうなんだ!」
 自分でも言い方がぎこちなかったとは感じたけれど、向こうにも何となく気まずい空気は伝わってたみたいで少しの間言葉を探す彼女との間に沈黙が流れる。
「……俺、事故に遭ってさ、昨年の5月。軽く走ったりは平気なんだけど部活でやるってなったらちょっと厳しい、的なこと言われちゃって。」
 ペラペラ暴露してしまう自分が他人のように思えた。でも何だか 

『どうして?』

 先にそう訊かれるのが矢鱈に怖かったのだ。

筆者 物部木絹子



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【ここまでのストーリー】

《第一話》(筆者 矢田川いつき)
「アキー! 一緒に帰ろー!」
放課後のチャイムと同時に、猪の如く向かってくる影がひとつ。
しかし俺は、それを華麗なステップでかわす。
「甘い!」
「わー! 避けないでー!」
ドシーン、と音を立てそうな勢いで彼女が転びそうになる……が、受け止めるまでが俺の役目。
「大丈夫か、真菜?」
「ありがと……って、誰のせいだと!」
「ハハハ」
何気ない、いつもの日常。
ずっと続くと、思ってた。
「帰るか」
「うん!」
俺らはもう……高校3年生だ。

《第二話 A》(筆者 ハニービースト)
俺と真菜が出会ったのは高校1年の夏。暑い日だった。
学校帰りにバス停に向かう途中、急な夕立ちに見舞われ折りたたみ傘を出すと…
「すみません!その傘、一緒に入れて下さい!」と急に女の子が少しぶつかり気味に入ってきた。
「おーっとっと…えっ!なに?」
「今日、雨の予報なんてなかったよね。あーこんなに濡れちゃったー」
「あっ、このハンカチ使います?」
「ありがとう……これって相合い傘ですよねー。少しドキドキしますね。しませんか?」
「いや、まあー」
「いつもバスで本読んでますよね!どんな本を読んでるんですか?」
「いや、まあー……」

それが真菜と俺の最初の出会いだった。

《第三話 C》(筆者 恒李)
傘で覆われる空間は一種のパーソナルスペースだと考えている。そこへ名前も知らない人がいきなり侵入してくるわけだ。普通は嫌悪感を抱くだろう。しかしその悪意の無い強引さと笑顔に負け、このくらいいいかと寛容になる。

「今日は本読まないの?」
バスまでの道のりで同じ学年であることを知り、敬語が外れた口調で覗き込むように訊いてくる。座る気のなかった二人席に腰掛けてるから距離が近い。
「もうぜんぶ読み終わったし、新しいの買おうと思う」
「へぇ、じゃあ今日はお喋りできるね」
横を見ると、目を細めて柔らかく笑うその子がいた。雨に濡れ、いくつもの小さな束を作る前髪が、その笑顔のアクセントになっているように思えた。

《第四話 C》(筆者 熊倉恋太郎)
「ね、ね。引き締まった体してるけどさ、もしかして何か運動とかしてるの?」
純粋な興味からの質問だろう。髪を貸したハンカチで拭いながら、間を持たせるためにという意味合いもあるかもしれない。
「いや、今は特に……」
「むー……さっきからそうやって適当な返事ばっかり……」
傘を少し引っ張る少女。急な動きにバランスを崩された俺は、1歩彼女の方へ寄ってしまう。

《第五話 A》(筆者 熊倉恋太郎)
「ちゃんと私の目を見て、答えてください!」
わざとらしい敬語と強めにした語気で、俺に問う。
雨の中でも負けることのない女の子特有の甘い香りが目の前にあり、心臓が大きく揺れる。
「むー……」
俺の事をじっと見つめてくる。
そんな可愛らしい姿に負けてしまった俺は、名前すらも知らない人に、これまで封じ込めていた言葉を漏らしてしまった。
「昔……サッカーをやってたんだ」

《第六話 A》(筆者 物部木絹子)

「……そうなんだ!」
 自分でも言い方がぎこちなかったとは感じたけれど、向こうにも何となく気まずい空気は伝わってたみたいで少しの間言葉を探す彼女との間に沈黙が流れる。
「……俺、事故に遭ってさ、昨年の5月。軽く走ったりは平気なんだけど部活でやるってなったらちょっと厳しい、的なこと言われちゃって。」
 ペラペラ暴露してしまう自分が他人のように思えた。でも何だか 

『どうして?』

 先にそう訊かれるのが矢鱈に怖かったのだ。


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